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【2025年版】製作委員会方式とは?(2)アニメ・映画業界を支える製作委員会方式の会計処理を公認会計士が徹底解説

目次

Last Updated on 2025年9月7日 by ロジメイト編集部

はじめに

製作委員会方式は、日本のコンテンツビジネス、特にアニメーション制作において広く採用されている共同事業形態です。複数の企業が出資し、リスクを分散しながら作品を制作・展開する仕組みですが、その会計処理には固有の論点が存在します。

本記事では、製作委員会における会計処理の実務について、具体的な仕訳例と図解を交えながら詳細に解説します。エンタメ業界の経理担当者が直面する実務上の課題に対して、明確な指針を提供することを目的としています。

この記事で分かること

  • 製作委員会方式の会計処理上の各種論点
  • 製作委員会への出資金の3つの会計処理方法
  • 窓口会社と非窓口会社の収益認識の違い

この記事の対象読者

  • エンターテインメント業界、IPコンテンツ業界の経理担当者
  • 製作委員会への出資を検討している企業の実務担当者
  • アニメ・映画制作会社の会計実務担当者
  • IPコンテンツ業界に関わる監査法人の担当者

製作委員会方式とはそもそも何か?

ロジメイトでは、「製作委員会方式とはそもそも何か?」について解説をした記事を作成しています。

事前に、併せて読んでいただけると一緒に読んでいただけるとより分かりやすいかと思います。

用語解説

上記の記事でも解説をしていますが、簡単に用語解説です。

製作委員会:複数の企業が共同で出資し、アニメや映画などのコンテンツを制作・運用する事業体

窓口会社:特定の権利(配信権、商品化権等)について、第三者との交渉・契約締結を行う権限を持つ会社

幹事会社:製作委員会の運営管理、資金管理、配分計算等を行う中心的な役割を担う会社

配分原資:権利利用収入から各種手数料・経費を控除した、出資者に配分される金額

製作委員会に対する出資金の会計処理

製作委員会の出資者は、幹事会社に対して出資比率に応じた出資金を支払います。出資金はアニメ制作費、および広告宣伝費などの共通経費に使用されます。

まず、この出資金について、貸借対照表上の表示科目、資産の計上時期、費用配分の方法が論点となります。

(1) 貸借対照表の表示科目

製作委員会の出資金に関して、貸借対照表の表示科目については、以下の3つの処理方法が一般的に考えられます

① 製作委員会の出資金を棚卸資産(例:仕掛品勘定)として処理する場合

製作委員会に対する出資金は、映像作品を制作する目的で拠出されるものです。

映像作品は収益を獲得するために制作され、放映から比較的短期間で消費される資産であることから、棚卸資産の性質を有すると考えられます。

出資金の用途に着目する会計処理であり、仮に自ら映像制作を行い、販売する場合の会計処理と整合的と考えられます。なお、映画会社においては伝統的に、映画制作費を棚卸資産に計上している事例が多く見られます。

② 製作委員会の出資金を「無形固定資産(例:ソフトウェア、コンテンツ資産)」として処理する場合

製作委員会に対する出資金は、知的財産(IP)を利用した映像作品、およびそこから派生する二次利用(グッズ、ゲームなど)により獲得される収益により回収されるため、知的財産としての無形資産(コンテンツ)の性質を有します。

委員会契約においては、制作された映像作品および成果物の著作権、所有権などは委員会に帰属し、出資者がその出資比率に応じて共有する旨が定められる場合が多く見られます。

③ 製作委員会の出資金を「投資その他の資産(例:出資金)」として処理する場合

製作委員会に対する出資が、配分金などによる回収を目的とした投資である場合は、投資その他の資産の性質を有すると考えられます。また、製作委員会は民法上の任意組合に該当し、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第132項では、任意組合の出資については、原則として、組合などの財産の持分相当額を出資金として計上することが求められています。

この表示方法は、製作委員会の活動から生まれるコンテンツ(映像作品等)の性質を重視することなく、製作委員会そのものに対する出資と回収を重視する考え方といえます。

(2) 資産の計上時期

資産の計上時期については、製作委員会契約書において出資金の支払スケジュールが定められており、幹事会社から出資各社に対して請求書が発行されるため、当該内容を踏まえて会計処理されると考えられます。

出資各社は、請求書の受領時に、未払金などの適切な債務勘定を相手として、製作委員会に対する出資金の資産計上を行うことが考えられます。

(3) 費用配分の方法

費用配分の方法(償却開始時期、償却期間、償却割合)については、製作委員会に対する出資金の費用化の方法について定めた会計基準は存在しないため、他の会計基準を斟酌しながら、資産の評価を行っていくことになります。

製作委員会に対する出資金は主にアニメ制作に費消され、アニメ放映開始後のストリーミング、ブルーレイディスク等のグッズ販売などにより収益を獲得しています。そのため、アニメ放映開始時点から一定のルールに基づき償却を行い、将来の収益獲得能力を評価に反映させていくことが考えられます。

償却パターンの具体例:

アニメ放映開始から最初の四半期で全体収益の80%が発生、その後3ヶ月ごとに10%、5%、5%が発生し、1年間で収益の大部分を獲得するようなIPの場合:

  • 第1四半期:80%償却
  • 第2四半期:10%償却
  • 第3四半期:5%償却
  • 第4四半期:5%償却

このような収益認識と費用の対応を重視した償却方法を会計方針として策定し、継続的に運用することが考えられます。

2. 委員会収入の配分の会計処理

委員会収支の配分の際には、配分報告書が出資者に送付されます。計算期間は契約書において定められ、出資者の決算期に合わせて四半期ごととされる事例が多く見られます。

配分報告書は、権利利用により得られた収入から、窓口手数料および経費などを差し引き、残額を出資企業に配分するという構成になっています。

配分報告書の例

以下に、典型的な配分報告書の例を示します:

【表1】配分報告書

ストックオプション費用配分計算表
項目 計算式 金額
権利利用収入 (a) 50,000千円
窓口手数料 (b) (a)×20% 10,000千円
実際の経費 (c) 実費 5,000千円
原作者への支払い等
(原作使用料)
(d) (a)×10% 5,000千円
製作委員会収入 (e) (a)-(b)-(c)-(d) 30,000千円
幹事会社手数料 (f) (e)×5% 1,500千円
配分原資 (g) (e)-(f) 28,500千円
配分金(出資者A) (h) (g)×50% 14,250千円
配分金(出資者B) (i) (g)×30% 8,550千円
配分金(出資者C) (j) (g)×20% 5,700千円

※ 手数料率は業界慣行の一例であり、実際の契約により異なります。

この配分がどのように会計処理されるかについて、窓口会社と非窓口会社それぞれの立場から考察します。

(1) 出資者A(窓口)の会計処理

権利窓口を務める会社は、当該権利を使用した製品販売、および第三者へのその許諾の権利を有しています。窓口会社は、利用許諾先との権利許諾契約書や、許諾先から送付される権利使用申請書(通常、権利許諾期間、対象、使用料などが記載される)に基づき、分配計算期間における権利使用料収入および必要経費の集計を行い、配分報告書を作成します。そして、配分金を製作委員会を通じて(または通さずに)出資各社に配分します。

このように、窓口会社は許諾先との契約、使用許諾、使用料の回収、配分計算といった業務を主体的に行っており、窓口会社自らが財又はサービスを提供しているといえるため、権利利用収入を総額で売上計上し、他社に配分する金額を原価計上することが考えられます。

これを仕訳の形で表すと、以下のようになります:

収益認識及び原価の認識:

借方
貸方
15,000
15,000
500
500
1,500
1,500
原作使用料:
借方
貸方
5,250
5,250

出資者Aがこの取引から得られた利益は24,250千円であり、これは委員会収入から経費や他社への配分金額などを除いた純利益、または出資者Aが受け取る窓口手数料および配分金の合計により計算することができます。

(2) 出資者B(非窓口)の会計処理

一方、非窓口会社は、窓口会社が獲得した収益の一部を出資比率に応じて受け取りますが、権利許諾などの取引を主体的に行っているわけではありませんので、出資に対するリターンの性質が強いといえます。そのため、単に受け取った配分金を純額計上することが考えられます。

借方
貸方
8,850
8,850

実務担当者のためのチェックリスト

出資時の確認事項

  • 製作委員会契約書の入手と内容確認
  • 出資比率と配分比率の一致確認
  • 窓口業務の有無の確認
  • 会計処理方針の決定と文書化
  • 監査人への事前相談

よくある質問

製作委員会への出資は税務上どのように扱われますか?

製作委員会は通常、民法上の任意組合として扱われ、パススルー課税が適用されます。詳細は税理士にご相談ください。

出資金の減損処理はどのタイミングで検討すべきですか?

作品の興行成績が著しく予想を下回った場合、配信停止、放送中止等の事象が発生した場合に検討が必要です。

まとめ

製作委員会方式の会計処理は、以下の主要な論点を中心に検討する必要があります:

1. 出資金の会計処理

  • 貸借対照表上の表示科目の選択(棚卸資産、無形固定資産、投資その他の資産)
  • 資産計上時期の決定
  • 費用配分方法の策定(償却パターンの設定)

2. 配分金の会計処理

  • 窓口会社:総額表示による売上計上と分配金の原価処理
  • 非窓口会社:純額表示による収益計上

これらの会計処理を適切に行うことで、製作委員会方式によるコンテンツビジネスの実態を財務諸表に正確に反映させることが可能となります。各社の事業特性や役割に応じて、最適な会計処理方法を選択し、継続的に適用していくことが重要です。

また、製作委員会方式は複雑なスキームになりやすいため、経理部門だけでなく、事業部門との連携や監査法人との協議を通じて、適切な会計処理を確立していくことが求められます。

参考法規・会計基準

  • 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
  • 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
  • 法人税基本通達14-1-1~14-1-3(任意組合等の組合事業に係る利益等)

※本記事は2025年8月時点の会計基準・税法に基づいています。

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免責事項

本記事は一般的な会計処理の解説を目的としており、個別の取引については、必ず顧問税理士・公認会計士にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた判断により生じた損害について、筆者および監修者は責任を負いません。


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この記事の執筆者

西川隆将

西川 隆将

公認会計士
2015年に北海道大学在学中に公認会計士試験に合格。大学卒業後、EY新日本有限責任監査法人での監査業務を経て、株式会社BearTail(現TOKIUM)にて事業会社での実務経験を積む。その後、PwC税理士法人で税務業務に従事し、公認会計士として登録。2025年7月に「ロジメイト」を立ち上げ、監査・事業の各領域での豊富な経験を活かしたサービスを提供している。北海道帯広市出身。

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